度々ニュースでは、「芸能人や俳優の〇〇が覚せい剤で逮捕!」といったようにセンセーショナルに報道されることがあります。なので、大麻や覚せい剤、コカインなどといった薬物の名を耳にしたことがあるかもしれません。これらの薬物は、日本では規制薬物となっています。そのようなことから「自分は薬物とは縁がない、身近じゃない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実は私たちのすぐ身近には多くの依存性薬物が存在します。そして、知らぬ間にそれらに依存してしまうリスクもあるのです!いったん脳内で依存が形成されてしまったら、いくら自分の意志でやめようと思っても、やめることが困難になってしまいます!
今回取り上げる“身近に潜む依存性薬物”は、2001年頃からその乱用が社会問題化された危険ドラッグ(脱法ドラッグ)です。
脱法ドラッグとは、規制されている薬物と類似の効果を持っていますが、化学構造式の一部を変えることで法規制を逃れた薬物のことです。“お香”や“アロマ”などとして、インターネットや店頭、自動販売機等で販売されており、2014年3月時点では、全国に販売店が215店舗ありました1)。
度重なる社会問題化を受け、2014年に厚生労働省と警察庁は、脱法ドラッグを危険ドラッグと呼称しました。また同年、医療品医療機器法(旧薬事法)を改正し、危険ドラッグを包括的に規制できるようにしました。その結果、2015年7月には、全国の販売店舗は無くなりました1)。
しかし、一般住民を対象にした全国調査によると、危険ドラッグの生涯経験率(これまでに一度でも使用経験がある者が占める割合)と推計使用人口の推移は、2013年0.4%(約40万人)、2015年0.3%(約31万人)、2017年0.2%(約22万人)と減少傾向にありましたが、2019年は0.3%(約27万人)となり、いまだにインターネット上では新たな危険ドラッグの流通があると指摘されています2)。
同調査によると、大麻に関しては、2017年から有機溶剤を抜き、国内で最も多く使用される薬物となりました(2019年の生涯経験率と推計使用人口は、1.8%、約161万人)。その要因として、近年の海外(アメリカの一部の州やカナダなど)における大麻容認政策の影響や危険ドラッグの規制強化の影響(危険ドラッグから大麻へ転向)などの可能性が指摘されています2)。
大麻の容認論は海外を中心に議論され、難治性の嘔気・嘔吐、食思不振などで医療大麻の有効性が示されています。こうした大麻の成分は、危険ドラッグにも含まれています3)。では、危険ドラッグには医療大麻の効果があるのでしょうか?
危険ドラッグは、規制を逃れるために化学構造式の一部が変えられているため、その効果は大麻とは異なる可能性があります。また、近年流通している危険ドラッグは、同じく規制を逃れるために、大麻と覚せい剤の類似成分が同時に混ぜ込まれた物があります。したがって、危険ドラッグの危険性の本質は、使用すると「何が起きるか誰にもわからず、何が起きても不思議ではないこと」だと指摘されています3)。
そのため規制強化後の方が、交通事故や死亡例の報告が増えており、より危険性が増し“モンスター・ドラッグ”となってしまったとも指摘されています4)。
一般的に危険ドラッグや大麻は、更に効果が強い依存性薬物への入門ドラッグになりうると言われています。したがって、事故や健康被害、薬物乱用・依存へのリスクを低減するためにも、改めて危険ドラッグや大麻といった依存性薬物の実態をよく知り、また刑罰の視点のみならず、“依存症”という視点からも更に薬物問題の議論を深めていく必要性があるのではないでしょうか。
参考文献
1)和田 清(2019).15「危険ドラッグ」の過去・現在・未来.宮田久嗣・高田孝二・池田和隆・廣中直行(編著)アディクションサイエンス―依存・嗜癖の科学―.朝倉書店, pp.150-159.
2)厚生労働科学研究費補助金 分担研究報告書「薬物使用に関する全国住民調査(2019年)」
3)廣中直行(2019).14覚醒剤・大麻.宮田久嗣・高田孝二・池田和隆・廣中直行(編著)アディクションサイエンス―依存・嗜癖の科学―.朝倉書店, pp.139-149.
4)松本俊彦・今村扶美(2015).SMARPP-24物質使用障害治療プログラム.金剛出版.
文:阿相周一(公認心理師、臨床心理士)