バベルの塔という話を聞いたことはありますか?
『旧約聖書』「創世記」に記されたれんが造りの高い塔。物語によれば、人類はノアの大洪水ののち、シナル(バビロニア)の地にれんがをもって町と塔を建て、その頂を天にまで届かせようとした。神はこれをみて、それまで一つであった人類の言語を乱し、人間が互いに意志疎通できないようにしたという。日本大百科事典より
このバベルの塔を現代風にアレンジした映画に、BABEL (2006)というものがあります。
モロッコ、メキシコ、東京を舞台に起こるそれぞれの悲劇から、ひとつの真実に辿り着くまでが壮大なスケールで描かれる。出演はブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナルに加え、日本からは役所広司と菊地凛子が参加。映画.com
3つの地域で進行する物語で、そのうちひとつは日本ですから、3分の1は字幕や吹き替えがなくても楽しめます。ただ、このコラムで注目したいのは、モロッコでのストーリーです。北アフリカが舞台ですが、主な登場人物は、ブラッドピッドとケイトブランシェットという実力派俳優の2人が演じるアメリカ人の夫婦です。
この夫婦は、育児が一区切りついたところで、倦怠期に陥ってしまいます。夫はこの状況を何とかしたくて、「新しい体験を共有しよう」と、モロッコへのツアーを計画しました。
モロッコの砂漠を走る観光バス。すると現地の子供たちが、たまたまライフルを見つけてしまい、いたずらでバスを遠くから狙い撃ちします。本人たちからすれば、お祭りの射的のような感覚だったのかもしれません。
そのいたずらで放った銃弾は、運悪く、バスの窓を貫通して、妻の首の付け根に当たってしまいます。するどい音がしたとき、何が起こったのかわからず、一瞬、時間が止まったようになります。しばらくして状況を察知した夫は、取り乱しながらも、冷静になって妻を助けようとします。
アメリカ大使館に連絡して、ドクターヘリを要請したいのですが、連絡手段がありません。別の車両がバスの近くを通りがかりますが、状況をうまく伝えられず、通り過ぎてしまいます。他の環境客たちはケガ人を助けたいと思う一方で、その地域の治安を不安に感じ、2人を砂漠に残して、バスは走り去ってしまいます。
この夫婦は、砂漠の中の村にある、簡素な家で、大使館からの連絡を待つことになりました。一刻を争う状況は変わらず、夫は気が気でありません。
すると怪しげな老婆が出てきて、香を焚き、屋内をその香りと煙で満たします。薬草を飲ませたり患部に貼り付けたりします。何をされているのか、聞きたくとも言葉が通じず、夫は混乱します。その一方で、妻は顔色が安らいで行き、眠りについて行くように見えます。
その香りにはなんらかの鎮静作用があるらしく、いわゆる麻酔をかけらような状態になっていき、ヘリが来るまでの時間をかせぎます。
こんなことは現実では無理かもしれませんが、製作者もある程度はこのような「民間療法」についてリサーチしたのだと思います。この映画では、香りの持つ神秘的な力と、それを言葉で理解できない現代人の不安が、見事に描かれています。
香りと健康の歴史は、何千年もさかのぼります。ほんの100年で発展した心理療法の歴史が、いかに浅いものかわかりますね。
文:宮崎大学 HIKARI Lab監修 小堀修