前回のコラムで紹介したように、香りの伝統的医学や研究は数千年も続いています。精油を日常生活で使い始めたのは2000年代と言われています。
火傷にはラベンダー
喉の腫れにはユーカリ
消毒にはティートゥリー
柑橘系はリフレッシュに
フローラル系はリラックスに
ウッド系は集中に
といったことは、どこかで聞いたことがある人が多いでしょう。また、コーヒーを飲むと、カフェインによって覚醒しますが、豆の香りをかぐだけだと、リラックスする効果があります。
香りについて、いくつか有名な研究を振り返ってみましょう。
例えば、まだ世界がぼんやりとしか見えない赤ちゃんは母親を匂いで半別している、自分と異なるDNAを持った異性の匂いを好きだと感じやすいといった話は、みなさんも聞いたことがあるのではないでしょうか。
誰かの整髪料の香りを感じたときに、急に高校時代の記憶がよみがえったことがあります。それは私が当時使っていたヘアムースと同じ香りで、CMにショーンレノンが出ていたこと、彼はジョンレノンの息子だと姉が教えてくれたこと、などを鮮明に思い出しました。このような現象をプルースト効果と呼びます。より正確には、こちらに上手にまとまっています。
特定のにおいが、それに結びつく記憶や感情を呼び起こす現象は、プルースト効果と名づけられている。フランスの作家マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』という小説の中で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸した際、その香りで幼少時代を思い出す場面があり、その描写が元になっているということである。
嗅覚は五感の中で唯一、嗅細胞、嗅球を介して、本能的な行動や喜怒哀楽などの感情を司る大脳辺縁系に直接つながっているので、より情動と関連づけしやすいためと言われている。(日医on-lineより)
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/008191.html
視覚や聴覚と比べると、解剖学的に、嗅覚はダイレクトに脳とつながっています。ただ、香りの心理学的効果についての実証的な研究は、まだまだ始まったばかりで、それほど多くはありません。ここでいくつか、興味深い研究を紹介します。
病院の待合室は退屈で緊張しますよね。病院の苦情の多くは待ち時間が長いことなんだそうです。この研究では、待合室でベルガモットの香りを使うと、気分が改善されるというものでした。
Bergamot (Citrus bergamia) Essential Oil InhalationImproves Positive Feelings in the Waiting Room of a Mental Health TreatmentCenter: A Pilot Study
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ptr.5806
こちらの論文は、いくつかの論文をまとめて分析して、全体的な傾向として、ラベンダーは眠りを改善させることを明らかにしました。
Asystematic literature review and meta-analysis of the clinical effects of aromainhalation therapy on sleep problems
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7939222/
ラベンダーは試験前の不安にも効果がありました。
Effectsof aroma inhalation on examination anxiety
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1557308708000383
効果が見られなかった、ということを明らかにした研究もあります。例えば、認知症の症状に、アロマセラピーの効果はありませんでした。
Aroma therapy fordementia
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD003150/abstract
香りを使った製品を売りたいがために、たったひとつの実験を引用して「●●に効果がある」と主張する広告には気をつけてみてください。むしろ、直感的に「これはいい香りだ」と感じた製品を購入したほうが、自分に合っていて、いいのかもしれませんね。
文:宮崎大学 HIKARI Lab監修 小堀修