これまでのコラムに基づいて、今回は、「香りの心理学」をビジネスに活用するアイディアを提案します。香りの心理学について書いた他のコラムも読んでみてください。
私たちが身に纏(まと)う香りには、どんなものがあるでしょうか。香りの種類ではなくて、どのような製品を通じて、香りを身につけることがあるか想像してみてください。精油(アロマオイル)のミストスプレー、シャンプーやコンディショナー、ハンドクリームやリップなどの化粧品、洗濯の柔軟剤、そして香水などがあります。これらは、家にいても、外に出ても、私たちについてまわる香りです。
それぞれの商品に、どのくらい香りの種類があるでしょうか。私が(近所の薬局で)フィールドワークしたところ、もっとも少ない、似通った香りになるのは、洗濯の柔軟剤、シャンプーやコンディショナーでした。反対に最も種類が多いのは、香水です。誰もが日常的に使う柔軟剤やコンディショナーは、大多数の人に受け入れられる香りに絞られていくのに対して、一部の人しか使わない香水には、かなり個性的な香りも需要があるのかもしれません。
なお、ブレンドされていない精油の場合、店舗に並んでいる種類は、およそ20から30くらいですが、実際は200から300種類のアロマオイルがあるそうです。
それでは、どの商品の香りがいちばん強いでしょうか。おそらく香水でしょう。香水は自分だけでなく、他人にも感じてもらうことが意図されているため、自ずと強くなります。
そうすると、ひとつ違和感に気づきます。
私たちは、柔軟剤の香りから香水まで、さまざまな香りを身につけていることになります。香りに統一感がなかったり、チグハグな組み合わせになっていたり、香水に他の製品の香りがかき消されてしまったりします。
衣服をコーディネートするときは、スタイル、ある程度の統一感があり、かつ、自分の体格やTPO(結婚式や葬儀など)に合ったコーディネートなどが提案されています。これとは対照的に、香りについては直感的に、あるいは、何も考えず選ぶことも多く、結果として、複数の香りがお互いを打ち消し合ってしまうこともあるでしょう。
香りにスタイル、今の自分にあった香り、自分らしい香り、を見つけることはできるでしょうか。
精油にはそれぞれ、消毒、鎮静、活性化、抗炎症などの効能があります。こちらのサイトによくまとめられています。
https://leaders-online.jp/life/syumi/10678
そこで、自分の状態を主観的、客観的に把握し、その状態にあった香りを持つ一連の製品を提案してみてはどうでしょうか。
スマートフォンのアプリを使えば、自分の主観的な感情の種類や程度を測定するだけでなく、音声や表情から、AIが客観的に感情状態を分析することができます。また、スマホのカメラに指を当て、ライトをつければ、心拍数やおおまかな自律神経のようすも測定できます。
さらに、簡単なテスト、例えば心理学でよく使われる情動ストループ課題などで、その日の「頭の調子」も測定します。情動ストループ課題とは、例えば青色で書かれた赤という文字が表示されたら、できるだけ早く「あお」と言い、その反応時間を測定します。頭の柔軟性を測っているとも言えるでしょう。情動ストループでは音声情報も収集できるので一石二鳥です。
これらを総合して、今の心の状態をプロファイリングします。そして、よりよい気分になるような香り、よりパフォーマンスが上がるような香りをおすすめします。その香りや同様の成分を持つ精油のミスト、ハンドクリーム、シャンプーなどを購入できるよう、ショッピングサイトなどにリンクします。
香りには直感的な好みがあります。この直感を大切にしつつ、自分の状態を客観的に理解した上で、ネガティブな気分を和らげる、あるいは、仕事や家事がはかどる、「私らしい香り」は、新しいサービスとしての可能性を秘めています。
起床時から就寝まで、生活のどの場面で、どの香りが向いているか、おすすめもあります(松尾・東原, 2020)。しかしさまざまな精油を集めておくには、アロマに強い関心がある人を除くと、コストが高くなります。
そこで、自分らしい香りだけ、生活必需品に織り交ぜて使うのであれば、多くの人が試してみたくなるでしょう。
文:宮崎大学 HIKARI Lab監修 小堀修