“こころ”とその治療の歴史(1)~神話から自然哲学の時代~

October 23, 2026

心理学(psychology)とは、一般的に“こころ”と行動の科学的な学問と言われます。さて、ではその“こころ”とは、いったい何でしょうか。今回は、心理学の起源とも言われる古代ギリシャの哲学者アリストテレス前後の西洋史から“こころ”の歴史を探っていきます。

シュメール神話やエジプト神話など古来より、人の死や死後の世界などが語られてきました。古代ギリシャでも、ホメロスの『オデュッセイア』で主人公が冥界で死者の魂と出会う様子が描かれるように、人は死ぬと魂が身体から離れていくと理解されていたようです。このように死とは何か、生命とは何かといった自然現象や生命原理などは主に神話によって説明がされてきました。

そうしたなか紀元前6世紀前後から神話以外で万物を理解しようと試みる人たち(自然哲学者)が現れました。何人かの自然哲学者たちは、古代ギリシャ語で“魂”や“こころ”などを意味するプシュケー(psyche)という概念を用いて、生命活動の原理を論じました。ちなみにプシュケーという言葉は、もともとは“呼吸”などといった意味があったようです。

さて例えば、アナクシメネス(紀元前586年頃〜526年頃)は、プシュケーを空気のようなものと考えました。プラトン(紀元前427年~347年)は、人のプシュケーを「頭部にある理性的魂(理性)」、「胸部にある気概的魂(勇気や活力)」、「腹部にある欲望的魂(欲求)」の3つの部分に分けました。そして、「理性的魂」は肉体が滅んでも不滅とし、心身二元論的に理解をしました。

プラトンの弟子、アリストテレス(紀元前384年~322年)は、著書『デ・アニマ』で、プシュケーを神話的・神学的な問題としてのみ扱うのではなく、より自然学的な観点で生命原理を体系的に論じました。例えば、人と動物、植物にそれぞれのプシュケーがあると想定し、以下の機能を考えました。植物のプシュケーは栄養や生殖などの機能があり、動物のプシュケーには植物の機能に加え、感覚や運動、欲求などの機能があるとしました。人のプシュケーでは、植物と動物の機能に加え、理性の機能が備わっていると考えました。そして、身体とプシュケーとの関係を心身一元論的に理解しました(ただし、プシュケーのなかに“ヌース”という不死的な概念も想定していたようです)。

(“こころ”とその治療の歴史(2)に続く)

 

【参考文献】

高橋澪子(2016).心の科学史――西洋心理学の背景と実験心理学の誕生――.講談社(講談社学術文庫)

下西風澄(2022).生成と消滅の精神史――終わらない心を生きる――.文藝春秋

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