実は身近に潜む依存性薬物 ~ニコチン(タバコ)編 禁煙したいけどやめられない!?~

December 27, 2020

私たちの生活に身近な依存性薬物として、主にアルコール(お酒)やカフェイン(コーヒー)、ニコチン(タバコ)などがあります。今回は、20歳以上なら合法的に誰でも簡単に手に入るニコチン(タバコ)を取り上げたいと思います。

 

 まず、タバコ業界と厚生労働省の認識をみてみたいと思います。

 

財務省所管の特殊会社である日本たばこ産業(JT)は、タバコを「豊かな味わいや香りを愉しむ」、「リラックス」、「集中力を高める」、「人々とのコミュニケーションを演出する道具」等の理由から愛用されていると認識し1)、タバコの依存性を「たばこ(ニコチン)には弱いものではありますが、依存性があります。実際に、禁煙するのは難しいとおっしゃる喫煙者が多数…中略…実際に禁煙に成功された方々がたくさんいらっしゃるのも事実であり、個々人の意思および努力により禁煙することは可能です」と説明しています2)。

 

厚生労働省により始められた国民健康づくり運動である健康日本21では、「たばこに含まれるニコチンには依存性があり、自分の意志だけでは、やめたくてもやめられないことが多い」と指摘しています3)。なお、タバコのメリットの記載は見つけられませんでした。

 

依存性とは何でしょうか?

 

ニコチンは、大麻などの違法薬物やアルコールと同じように依存を形成する依存性薬物の一つです。一般的に依存性薬物を使用すると、ドパミンという神経伝達物質が脳に生じ、快感覚が得られます。持続的・反復的に使用していると、自分の意志とは関係なく“脳”がドパミン(快)を求めるようになります。使用していないときは不快な状態となり、その不快な状態を改善するためにも使用したいという強い渇望が生じます。結果的に、自らの意志で減らしたり、止めたりすることが困難になってしまいます。ヘビースモーカーほど、禁煙するのが難しいのはこのためです。

 

科学的な研究・調査ではどうでしょうか?

 

ラットに対する動物実験によると主成分のニコチンの薬理作用には、弛緩作用や若干の抗不安効果、若干の持続的注意機能の増進などがあるとされています4)。

薬理作用以外の心理学・社会学的な調査によれば、タバコはネガティブな気分・感情の回避、ストレスの軽減、リラックスするための手段となりえ、人や社会との繋がりを維持・促進する効果が報告されています5)。

 

タバコは人により“何らか”のメリットが感じられることが分かりましたが、以下のような“落とし穴”もあります。

 

タバコを日常的に吸っている場合、タバコを吸っていないとき、イライラや焦燥感、集中困難、不安などの不快な状態(タバコ離脱)が生じることがあります。この不快な状態は、喫煙することで改善されます5)。このような不快な状態の改善を喫煙者は、タバコによるストレス軽減効果と感じてしまうことがありますが、実はタバコはストレスを作り出す一要因にもなっているとも指摘されています6)。

 

 禁煙したいけどやめられないときは?

 

タバコをやめようとするとき、タバコのデメリット(例えば、健康に悪い)を意識するのは重要です。一方で、それだけでは、なかなかやめ続けられない方は、“落とし穴”に惑わされずに「自分にとってタバコを吸うメリット(吸い始めた頃は、タバコで、どのような感情・状態・人間関係などが得られていたか?)」も意識し、そのメリットを、“タバコ以外”で補えるように行動していくという視点も、長く禁煙していくための一つの手かもしれません。

 

参考

1)日本たばこ産業株式会社 たばこに関するJTの基本認識

(https://www.jti.co.jp/tobacco/responsibilities/recognition/index.html2020年11月19日閲覧)

2)日本たばこ産業株式会社 依存性

(https://www.jti.co.jp/tobacco/responsibilities/guidelines/responsibility/dependency/index.html2020年11月19日閲覧)

3)厚生労働省 健康日本21たばこ

(https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b4.html2020年11月19日閲覧)

4)廣中直行(2019).5依存性物質の行動薬理.宮田久嗣・高田孝二・池田和隆・廣中直行(編著)アディクションサイエンス―依存・嗜癖の科学―.朝倉書店, pp.38‐48.

5)入江智也(2019).12タバコ.宮田久嗣・高田孝二・池田和隆・廣中直行(編著)アディクションサイエンス―依存・嗜癖の科学―.朝倉書店, pp.121-129.

6)厚生労働省e-ヘルスネット たばことストレス

(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-06-005.html2020年11月19日閲覧)

 

文:阿相周一(公認心理師、臨床心理士)

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