このコラムでは、自分らしさを「本来感(Authenticity)」と、捉え直したうえで、その4つの柱について解説しています。その4つとは、気づき、偏りのない自己評価、自分らしい行動、人間関係の4つです。今回は偏りのない自己評価についてみていきます。この自己評価には、2つの段階があります。
まず、自分の長所と短所、あるいは、強みと弱みを、認識できていること。
そして、自分の長所と短所を、客観的に評価できること。
中学生後半から、高校生にかけて、自分探しをしたり、自分らしさを求める理由に、この長所と短所の認識が影響しているようです。就学前の子どもは、何かができるようになると保護者が大げさに褒めてくれますし、どのような特徴を持っていても、それをポジティブに言い換えて、「元気があるねえ」「マイペースで集中力があるねえ」「好奇心旺盛だねえ」と言ってもらえます。児童の頃は、学力に大きな差がないようにカリキュラムが組まれ、成績が評価されます。
これらを長所として受け入れ、その後も自分の側面として受け入れていければ万事OKです。しかし多くの場合、言語的理解や自己認知が十分に発達する前に言われたことなので、いつのまにか忘れてしまったりします。多くの子どもが、思春期から青年期にかけて、自分の言葉で、もういちど自分の長所を探す作業をすることになります。
また、思春期になると、学力でつまずいたり、友達関係でつまずいたり、恋人とうまくいかなかったり、かつては自分をほめまくっていた親と進路をめぐって衝突したりと、さまざまに「自分を否定される」体験をします。自分には短所ばかりだと思えるときもあります。
さらに、いじめられた体験、被虐待体験があると、より幼い時から短所の認識が始まるかもしれません。相手に言われたことに傷つき、それに反発できず、言われたことを真実だと思い込み、それが自分の大きな側面だと思うようになってしまいます。
次に「客観的に評価する」とはどういうことでしょうか。これは、他人の評価に左右され過ぎず、自分の長所と短所の理解を続けること、と言えるかもしれません。特に若いアスリートには必要不可欠なスキルでしょう。
若くして大活躍したアスリートが、メディアやスポーツ界でチヤホヤされ過ぎて、自分を見失うとは、まさに「長所と短所が客観的に評価できなくなる」ことにつながってしまいます。自分の長所がとても大きく見えてきたり、本来だったらいま取り組むべき基礎的なトレーニングが、どうでもいいやと思えてくるかもしれません。
私たちの場合、試験がうまくいかなかったり、親友や恋人など親しい人物からひどいことを言われると、自分の長所がとても小さく見えて、短所ばかりが目に付くようになってしまうことがあります。傾いたバランスを立て直して、自分らしさ、つまり自分の長所と短所を客観的に捉え直すのは、とても大変な作業になります。
今回は、自分らしさの4つの柱のうち、「偏りのない自己評価」について、解説してみました。このコラムでは、後々、長所と短所を偏りなく探す方法についても、提案していく予定です。
文:宮崎大学 HIKARI Lab監修 小堀修