このコラムでは、自分らしさを「本来感(Authenticity)」と、捉え直したうえで、その4つの柱について解説しています。その4つとは、気づき、偏りのない自己評価、自分らしい行動、人間関係の4つです。今回は3つ目の、自分らしい行動について取り上げます。これは、忖度することなく、他者の期待や批判にとらわれず、自分の価値観に基づいて行動できることです。
大学院生の頃、日本からロンドンを訪れて、認知行動療法の研修を受けたことがありました。一緒にロールプレイをした女性と、ちょうど私より20歳くらい年上のベテランのイギリス人でしたが、昼休みに外に出て歩いていた時のことです。
ホームレスらしき男性が私のほうに近づいてきて、突然、歩道に倒れてしまいました。すると私は、その男性を無意識にかわしていました。しかし一緒に歩いていた女性は、「大丈夫ですか?」とすぐさま声をかけました。
初めてのイギリスで、かつ、治安のよくないエリアだったので、私の体は咄嗟に「回避」することを選んだのでしょう。しかし、その男性に声をかけて助けようとするという選択肢がなかったことに、少なからず私は動揺していました。おそらく「困っている人を助けたい」という私の価値観があって、その価値観に基づく行動ができなかったからだと思います。
(ちなみに、その翌年にイギリスを訪れたとき、その女性が、エイドリアン・ウェルズという有名な心理学者のパートナーであることを知ったのでした)
このように「自分の価値観に基づく行動ができなかった」ときに、自分の価値観が浮き彫りになることがあります。言い換えれば、自分の価値観を認識するのは、それほど簡単ではないということかもしれません。
私が好きなドラマに「アキラとあきら」という、池井戸潤さん原作の、銀行員たちの成長を描いた物語があります。ここに登場する2人のあきら、特に斎藤工さん演じる山崎瑛は、不器用なまでに自分を貫きます。左遷されたり、上司にあきれられても、忖度することなく、自分の価値観に基づいて行動していきます。
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一方で、向井理が演じる階堂彬のように、さまざまな出来事 (彼にとってはショッキングな体験) を通じて、大切にするものが少しずつ変化していくこともあります。例えば、何よりキャリアを大切にしていた人が、結婚や出産を経験して、出世よりも家族と過ごす時間を大切にするようになることもあります。難病を患ったり、高齢になって死を意識することで、よりスピリチュアルなものを大切にするようになることもあるでしょう。
ここまでをまとめてみます。自分の価値観とは異なる行動をしたときに、自分の価値観について知る機会が訪れることがあります。価値観は年齢や状況によって変化するもので、それほど人は一貫した行動を取り続けないかもしれません。
文:宮崎大学 HIKARI Lab監修 小堀修